わたし達が知っている「しごと」にはちょっとゆかいな物語がある。日々のてまひまは、障害のある人が作った良いモノとそのストーリーをお届けします。
社会福祉法人かだんが作るパウンドケーキは、しっとりしていてよい香り。代表の栁瀬利江さんは「ポイントはバターの泡立てと素材選びです」と話します。添加物を使わずに作られており、おいしくて安心できるからと、リピーターも多数。「保育園で出すおやつに選んでもらったり、子育て中のお母さんに購入していただいたりも多いんですよ」とのこと。
障害者のための福祉事業所では、内職や軽作業と言われる簡単な作業を請け負い、利用者への工賃としている施設が多くあります。もともと社会福祉法人かだんでも内職を行っていましたが、利用者のみなさんにもっと多くの工賃を支払いたいと、焼菓子を作る仕事を始めました。
スタッフとしてパティシエを招いてレシピを作り、高いクオリティの焼き菓子を提供できるように。その甲斐あって商品は人気を博し、工賃もぐっとアップしました。
ところがここで予想外の事態が。「お菓子作りに参加できる人とできない人に分かれてしまったことで、施設全体がどことなくキリキリとした雰囲気になってしまいました。もちろん工賃はきちんとお支払いしたいのですが、ここは福祉施設です。焼菓子のために利用者さんがいるわけではなく、『利用者さんがいるから焼菓子を作ることができる』という初心に立ち返りました」と栁瀬さん。
そこで、製造の過程を、計量や混ぜる作業、成形やラッピング、納品まで細かく分け、多くの人が自分の得意なことで仕事をしてもらいやすいように、さらに工夫を重ねました。お菓子作りの担当をしている松尾智子さんは、「一日のうちの長い時間を過ごす場所なので、楽しく過ごしてほしい。だからどんなお菓子を目指したいかを、みんなで話しながら決めています」と話します。
ラッピング作業や販売を担当する平山さんは、利用者のみなさんを仲間にすることに定評があります。仲間に巻き込むコツは?と尋ねると「特にこれといってないんですが、あえて言えば『最初は誰でもできんけん、気にせんでいいよ』というスタンスでしょうか。できる人もできない人も参加しやすい、柔らかい雰囲気をキープできるようにしています」と笑います。
おとなしい人や声が大きい人、ちょっと気難しい人など、これまで作業に参加してこなかった人が作業に加わることが増えました。その楽しそうな様子に、誰にとってもやはり仕事は生きがいになるのだと、スタッフ一同再確認しています。
社会福祉法人かだんには、「移動販売日」と呼ばれる日があります。名前はかつての名残で今は「移動」はしていないそうですが、利用者の中で希望する人とスタッフが協力してランチを作り、他の利用者に販売するというイベントで、もう取り組み始めて7年余りになります。給食と違って自分たちで買い物し調理し販売するというのが、大変ながらおもしろく、毎回長蛇の列ができる人気のイベントなのだそう。
栁瀬さんは、この経験やお菓子作りの仕事が、ふだんの生活にも自然といい影響を及ぼしていると感じています。「自分で食材を購入したり、衛生に気をつけたり、包丁を使ったり、おつりを渡したり。私たちがふだん何気なく経験してきたことを、これまで経験できなかった方も多くいらっしゃいます。体験が増えることで、地域でももっと暮らしやすくなるんじゃないかな」。
コロナ禍があったものの、委託先が増え、売上も徐々に伸びてきました。それでもかつての轍を踏まないよう、楽しく仕事をするにはどうしたらいいかについて、常に考えています。松尾さんは今の段階では、一方的に仕事を割り振るのではなく、スタッフと利用者みんなが意見を出し合って、納得しながら作ることが大切だと考えています。
パウンドケーキを焼いていると、施設内にふんわりと甘い香りが漂ってきます。「すると休み時間になると、みんなが焼いているところを覗きに来るんです。甘いものって、不思議と人を幸せな気持ちにします」と栁瀬さんは笑います。今回の日々のてまひまでは、その幸せな気分をおすそわけいたします。
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今後全国展開させていきたいと思っておりますので、
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